2025.6.19

第20回(2025年6月15日)報告

学習活動終了後12時頃から応援スタッフでその日の簡単な振り返りをしています。そこで、本日の各クラスの様子を書いてくれる人を決めます。なかなかすぐには手があがらない場合には、これまでの書き手を思い浮かべたりしながら、打診してきます。その際よく聞かれるのが、どのくらいの字数を書けばよいですかということ。「自由」というと書きづらいと思い、「短くて結構です。200~400字を目安にしてくれますか」と答えることが多いです。さて、送られてきた文章を見ると、大体のものが400字を超え、なかにははるかに超えるものも。その日の様子を少しゆっくり振り返ると、次から次へと伝えたいことが浮かんでくるのかなと思います。
安君さんと国母さんが報告しているように、本日は県民の日の無料サービスを利用して、全員で美術館と文学館を見学しました。前日スタッフから提案があり、この日の朝のスタッフミーティングで急遽決めました。希望を聞いて見学希望者と学習希望者に分けるという案が一時でましたが、いきなり希望を聞いても判断が難しいと思われたこともあり、「全員で行く!」こととしました。結果的に、ほとんどの人(もちろんスタッフも含めて)に楽しんでもらえたと感じています。それにしても、前の日の提案を受けて当日の朝に決めるという迅速さというか勢いは自主夜間中学にしかできないことかな。
自分は毎回開催報告を書いてきていますが、各クラスからの開催報告の内容を確認したうえで、書く内容を決めることが多いです。しかし今回は、先般開催された学習会で在住歴の長い外国人が話した内容をまとめる作業(文字起こし)に予想以上の時間(結果的に10時間程度)とエネルギーを注ぐこととなり、やや消耗してしまったので、開催報告は断念し、次回に回したいと思います。
暑くなり、朝が早くなってきました。愛犬空太の朝の散歩は6時台から5時台へ移行。散歩が終わってから朝食を取るまでの1時間~1時間半は楽しみな読書時間となっています。早起きは三文の徳!? 熱中症に気を付けて、暑い夏を過ごしていきましょう!!(田巻松雄)

小学生クラス
梅雨の晴れ間の日曜日、蔵の街夜間中学には、小学生からシニア層までさまざまな人が来ています。その日私は目のくりくりした海外にルーツのある男の子の漢字練習を指導していました。
かつての自分がそうであったように、彼もまた薄い緑色でマス目が書かれたノートに一文字、一文字丁寧に漢字を綴ります。トメ、ハネ、点の数、線の数、へんとつくりのバランス。隣では彼と同年代の女の子たちが賑やかに会話しながら算数の勉強をしているけど、全く気にする様子もなく集中して。
僕は彼の右側に腰掛け、鉛筆越しに彼の横顔を見ていました。その瞳、彼の呼吸、集中力。尊い、という言葉が不意に浮かんできました。がんばれ、がんばれ。
やがて、なにがきっかけになったのかは分かりませんが、かつての僕がそうであったように、突然集中力が切れ、ノートのページをめくり、後ろの方のページに舞台を移し、グルグルと何かを描き始めました。
子どもはこうでなくっちゃ。また彼の勉強をみたいな。隣の席ではよりテンションの上がった女の子たちの可愛らしい声が聞こえてきました(嶋田一雄)。

小学生クラス
◎ボーダー(境界)なき学び 「お店屋さんごっこで割り算をやりたい!!」
今日は何をやりたいのかと聞いたら、いつも物静かで喋っても消えそうな細い声の小学校3年生の女の子が、声を張って力強く返事したことにびっくりしました。しかも、子どもたちは、どんどんそれぞれの発想でそれぞれの「マイ教材」を作っています!1ヶ月ほど前に良い教材が見つからなくて、とっさに思いついた「お店屋さんごっこで算数」がこんなにも子どもたちに好かれている、しかもこんなに子どもたちにバージョンアップされていることに、素直にうれしい!
で、よく見ると、本屋さんの本は「3本、9本、2本」と書かれています。台湾出身の私は、母語による本の数え方は「本」なので、最初は何も思わなかったが、あとで日本語では本のことを「冊」で数えることを思い出しました。そうか、そうか。子どもたちが作った「マイ教材」は、数学だけではなく、日本語の「数量」を勉強することもできますね。数学に語学、学びにはボーダーがない。
隣りの部屋からKスタッフが応援に来てくれました。子どもたちに声を掛けながら、自ら小さな小さな本をいくつも作って、「これらの本を4人に分けると、1人何冊をもらえる?」と子どもたちに聞きました。「2冊!」「4冊!」の子どもの答えに、小さな小さな本が子どもに配られていきました。Kスタッフと子どもたちの会心の笑い声が響く。なるほど、なるほど。工作に数学、学びにボーダーがない。

 「これは何年前に書いた絵なの?」「この本を読んでもいいの?」
今日は県民の日で教室のすぐ隣りにある栃木市立美術館・文学館が無料開放されています。Yスタッフの提案で急遽2コマ目は、「美術館・文学館へ行こう」という特別授業になりました。美術館では、「大広重展」の最終日です。子どもたちに色彩豊かな浮世絵がとてもとても古い絵だと説明したら、「3年前?10年前?」と聞かれて、とっさに書かれている制作年を指しながら、「2025を1833で引たらいくつ?」と逆に聞いてしまいました。それから子どもたちは「桜が書いている!この人が重いものを持っている!」と絵を見ながら、「これは何年前に書いた絵なの?」と算数の練習をしました。4桁なので、答えが殆ど間違っていましたが(携帯の電卓アプリで確認(笑))、めげない小2の男の子は繰り返して挑戦し続けました。美術に数学、学びにボーダーがない。

 文学館では、90歳を過ぎてから詩を書き始めて、「100歳の詩人」と呼ばれた柴田トヨさんの展覧会です。2階の展示室まで、子どもたちは1階にある大正10年に建てられた文学館の説明模型や透明な床で見える床下礎を間違い探しのように見つめて、それぞれの発見を話していました 。やっと2階の展示室に着くと、子どもたちは見本として置かれている柴田トヨさんの本を見て、「この本を読んでもいいの?」と聞いてきました。いいよと言うと、一人またひとり、本を手に取って並んで椅子に座り、字だらけの本をまじめそうな顔で見つめました。帰りにクチナシの花の香りを楽しみ、落ちた花を記念品として持ち帰り、鯉が花を食べるかどうかも観察しました。文学に建築、生活に生物、学びにボーダーがない。

 帰りの集まりに「今日の美術館などで楽しかったこととか、何をやったとかと話したい小学生がいますか?」と声を掛けたら、いつも物静かで声の細いあの子は、高々と手を上げました。前に立って少し緊張気味でしたが、中ぐらいの声で「お店屋さんごっこは楽しかった。美術館は面白かった」としっかり話しました。そうね、そうね。学びは終わりがない、境界がない。本当に楽しかった。来てよかった。皆さん、ありがとう。本当にありがとう(鄭安君)。

中高生クラス
本日の中高生グループでは、ネパール国籍の女子2名が参加してくれました。この二人は約一か月振りの参加でした。二人とも昨年日本に来たばかりで、今年度中学校に入学しました。僕たちパートナーは、慣れない日本で、いきなりの中学校生活についていけるのかととても気が気ではありませんでした。しかし、そんな心配もよそに二人ともとても元気な顔を見せてくれて少しホッとしました。一方で学習の方はというと、来週テストがあるからと言ってテスト範囲のプリントを見せてくれました。とりあえず本人が苦手なものを学習することになり、国語の漢字学習を支援しました。しかし、一緒に学習しながらこれで学習者のためになっているのかと考えてしまいました。というのも、彼女たちは日本に来てまだ一年も経っておらず漢字も小学校の学習が終わっていません。それでも、間近に迫ったテストのため、かなり難しい漢字を学習しなければならないのです。こんな時に教科学習と日本語能力のアンバランスさについて、とても考えさせられてしまいます(矢部昭仁)。

 社会人クラス
 出席者は日本人2、インド人2、中国人1、ネパール人3人、ペルー人1人。合計9人です。
 今回の教室は2024年10月6日の開校以来20回目にあたります。20回の節目なので支援者の持ち寄ってきた料理や日本の料理を作って、楽しいイベントが出来ればと思いましたが、なんと、県民の日が重なったことは本当にラッキーなことでした。さらに、栃木市の美術館と文学館が無料解放された事はダブルラッキーでした。
 2時間目の10時半から全員で浮世絵の鑑賞にいき、皆さん熱心に見入っていました。鑑賞後、若者が浮世絵の繊細な絵に刺激を受けたのか、やや興奮しながら「是非、自分の国にエベレスト山のミュウジアムを創り世界中の人に観てもらいたいたい」と熱く夢を語りだしてきました。初めてみる広重の絵画にかなりの衝撃を受けたのでは。
 2時間目は行わないと思い込んでいたら、遅れてきた、ネパールの人はノートをひらき、学習支援を受けていました。ペルーの人も遅れてきたので傍で熱心に見入っていました。社会人の学習者は自分から学ぼうとする姿勢が強く逆に励まされています。毎回エネルギーをもらっています(国母仁)。