2025.8.29

第28回(2025年8月24日)開催報告

全体報告

 日本語学習を応援することは難しい。振り返りのミーティングの時を含め、よく聞かれる声です。日本語学習者をどのように応援するのか、ひらがな・カタカナ・漢字、いろいろと迷っている人が多いかもしれません。自分ももちろんその一人。
 本日午後に日本語教育学会の関東支部の活動でのオンライン会議で話をしたのですが、公立および自主夜間中学における日本語学習のルーツと生活漢字381字について少し紹介しました。
 東京都の8校の公立夜間中学のうち5校に日本語教室が開校されています。この背景には、1970年代に韓国や中国から多くの日本にルーツがある人々が帰国してきたことがあります。行き場・学び場のない学齢期を過ぎた帰国者たちは、生活する上で必要な日本語を学ぶために口づて、人づてに夜間中学に入学しました。自主夜間中学での日本語学習のルーツの例としては、奈良県にある西和自主夜間中学(1998年)を紹介しました。バブルが弾け、会社を解雇され、帰るに帰れない外国人労働者が奈良という地方都市に流れたのですが、当時、人材派遣会社による劣悪な処遇が横行していました。ケガの放置、劣悪な住環境、高額な身元保証料などです。この現実を知った有志達が「外国人労働者 奈良保証人バンク」の活動を始めるのですが、活動を進める中で生活援助とともに生きていくための日本語習得援助の必要を強く感じ、西和自主夜間中学を開校します。かれらがまず求めたのは、生きていくための、生活していくための日本語です。しかし、東京都公立夜間中学日本語教室を担当する教員も西和自主夜間中学のボランティアスタッフも日本語をほとんど分からない人たちの学習を応援した経験がありません。そこで、学習者と日々向き合いながら、様々な工夫がなされていくことになります。日本語学習を応援していくために、公立及び自主夜間中学の日本語学習実践の歴史を学ぶことはとても参考になる気がします。
 『国語八』という教材があります。生活基本漢字381字を学ぶための教材です。冒頭のメッセージはとっても素敵です。
 「笑と泣
 うえのかんじ(笑)は、わらうとよみます。したのかんじ(泣)は、なくとよみます。ふたつのかんじをじっとみていてください。わらうはわらいがおに、なくはなきがおにみえてきます。かんじはいきものなのです。このほんはいきているかんじを、わたしたちのせいかつのばめんで、いきたままみにつけられるように、くふうしてつくられたものです。さあ、みなさん たのしく かんじを おぼえましょう」。
 生活基本漢字の習得のために開発された授業用テキストで、生徒の生活文脈に即して、基礎、履歴書、衣食住、身体、病院、公共施設、標識、交通、自然、地理、職業、学校生活、社会生活、個人生活で不可欠な漢字を381字に厳選し、それを用いた本文となっています。東京都公立中学校二部授業資料開発委員会によって、昭和51(1976年)につくられたテキストで、もちろん本文は現代の時代に合わなくなっているものも少なくありませんが、とても参考になるテキストです。基礎教育保障学会のHPからダウンロード出来ます。
 なによりも、「かんじはいきもの、せいかつのばめんで、いきたまま みにつけられるように」が心に響きますね。
 随分前にペルーの小学生の夏休みの宿題を応援したことがあります。確か、その子は「駅」という漢字を一生懸命書いていました。書き順を見ながら、10くらい何度も書いていました。とてもきれいに書いていたので、「すごい!」とほめた後、「どこかの駅に行ったことある?」と聞いたところ、きょとんとしています・・もしやと思い、「駅はどういうところか知っている?」と聞くと、「分からない」という答えでした。駅という漢字を何度も何度も繰り返して覚えていくという学習はその子にとってどんな意味があるのか、複雑な心境になったことを思い出しました。
 漢字を生き物のように感じることが出来るようになれば、漢字の練習・学習はきっと楽しくなるのではないでしょうか。駅という漢字をじっとみつめてみてください。駅を知っている皆さんにとって、いろいろな駅の姿が浮かんでくるのではないでしょうか。(田巻松雄)

小学生クラス

 本日の参加者
• S君(小5・フィリピン)
• L姉妹(小2・年長・ネパール)
• S君(小2・ネパール)
以上、計4名。

<その1>色を混ぜると何色になる?
① 先週行った「ろ過実験」の復習を行いました。
② コップの水に絵具の赤・青・黄を加え、混色の実験をしました。どの色をどれくらい入れるかを工夫し、予想通りの色になるかを試しました。
③ 清涼飲料水(レモンスプライト)に食紅の赤・青・黄を混ぜて、思い通りの色を作る実験も行いました。液体はオレンジ、メロンソーダ、コーラのような色に染まり、それを飲んだ子どもたちは「オレンジの味」「メロンの味」「コーラの味がする」と口々に言いました。もちろん食紅には味が無く、変化したのは色だけです。見た目の色が味覚に影響を与えるという、興味深い現象が観察されました。

<その2>オリジナル紙芝居をつくろう!
① ストーリーのテーマを話し合った結果、「夜、外に出てはいけません」という教訓的な紙芝居を作ることに決まりました。夜遅くに1人で外に出ると、どんな危険があるかを伝える内容です。
② 「大変な目にあう」とは何かを話し合い、「お化け」「どろぼう」「動物」「鬼」に遭遇する怖さだという意見が出ました。
③ それぞれの存在について、具体的なイメージを膨らませました。
④ 皆で手分けして、貞子、ダンシングエイリアン、狼、雪女、青鬼、黒猫などが登場するシーンの下書きを進めました。

 来週は紙芝居の続きをする計画でしたが、残念ながら全員の参加が難しいとのこと。それでも工夫して、みんなのオリジナル紙芝居を完成させたいと思います。

 最後に報告者(古川)が、L姉妹のお姉さんとのささいな出来事をショートミステリー風にまとめてみました。

 日本語版: 「消えたネームプレートの謎」
 ある夏の昼下がり、事件は静かに幕を開けた。名探偵ミスループルのネームプレートが忽然と消えたのだ。
 彼女の首には、紐だけが所在なげにぶら下がっていた。そこにあったはずのネームプレートホルダーごと無くなっていた。ホルダーは在庫切れで、今無くなるのは困るのだ。しかも、そこには「ミスループル」の名が刻まれている。もし悪党の手に渡れば、彼女の身に危険が及ぶかもしれない…と、私は不安を覚えた。
 私は教室をくまなく探した。机の下、棚の隙間、ゴミ箱の中まで。だが、見つからない。ミスループルは、そんな私をじっと見つめていた。冷静で、どこか達観したまなざし。
「教室以外にどこか行きましたか?」と私が尋ねると、彼女は即座に答えた。
「トイレと自動販売機のところ」
 その返答の速さと正確さに、私は少し感動した。名探偵は記憶力も抜群なのだ。
 トイレへ向かう途中、ミスループルは私を軽やかに追い越した。彼女は歩くのが早い。いや、私が遅いのか。いや、たぶん両方だ。
 トイレに着くと、彼女はすでに待ち構えていた。
「ここには無いよ」
 私は念のため、個室の隅々まで探した。便器の裏まで覗いた。結果、当然ながら無かった。
「次は自動販売機ですね。何階ですか?」
「1階」
「どうやって降りましたか?」
「エレベーター」
 私たちはエレベーターに乗った。私はエレベーターの床を見まわして言った。
「無いですね」
 するとミスループルは、ふと天井を見上げて言った。
「エレベーターのかごが別にあるんじゃない?」
 私は一瞬、彼女が何か重大な構造的秘密を知っているのではと本気で思った。だが、ここは栃木市の公共施設。4階建て。そんな複雑な仕掛けのエレベーターがあるはずもない。
 1階では、子育て中のお母さんたちが談笑していた。私たちは廊下、自動販売機の周辺を探した。何もない。受付にも落とし物の届け出はなかった。
「もう一度教室を探そう」
 ミスループルの声は、静かだが確信に満ちていた。私は「いや、もう探したし…」と思いつつ、彼女に従った。
 教室に戻ると、彼女は迷いなく床に四つん這いになった。そして、わずか数秒後。
「…あった」
 彼女の手には、失われたネームプレートが握られていた。
「どこに?」
「椅子の下」
 その椅子は、背もたれのないスツール。机の下にすっぽり収まる設計で、まさに死角だった。私はその椅子の存在すら忘れていた。
 事件は、名探偵ミスループルの冷静な観察力と的確な推理によって、見事に解決された。

English Version: Detective Miss Loopel and the Case of the Missing Name Tag One summer afternoon, a quiet classroom became the scene of a mystery. Detective Miss Loopel’s name tag had vanished. Around her neck hung only a lonely string—no holder, no tag.
The name tag holder was out of stock. Losing another one was a blow. Worse still, if her name tag fell into the wrong hands, who knew what danger might befall her? (Okay, maybe I was getting carried away.)
I searched the classroom top to bottom. Under desks, behind shelves, even inside the trash bin. Miss Loopel watched me calmly, her eyes saying, “You’re looking in all the wrong places.”
“Did you go anywhere outside the classroom?” I asked.
“Just the toilet and the vending machine,” she replied, without hesitation. As I headed toward the toilet, Miss Loopel overtook me with ease. She walks fast. Or maybe I walk slow. Or both.
She was already waiting when I arrived.
“It’s not here,” she said.
I checked anyway. Every stall, every corner. Nothing.
“Which floor is the vending machine on?”
“First floor.”
“How did you get there?”
“Elevator.”
We rode the elevator together.
“No sign of it here,” I muttered.
Miss Loopel looked up and said, “Maybe there’s another elevator car?”
Her imagination always surprises me. Though in this modest four-story building, I doubted it.
Downstairs, mothers chatted while their children played. We searched the hallway and vending area. No luck. Even the front desk had no lost items.
“Let’s check the classroom again,” Miss Loopel said.
I had already searched for it thoroughly, but followed her anyway.
Back in the classroom, she dropped to all fours and peered under a stool.
“Found it,” she said, holding up the missing name tag.
“Where was it?”
“Under the chair.”
The stool was tucked neatly under the desk, hidden from view unless you got down low. I had missed it completely.
Case closed. Detective Miss Loopel had solved the mystery. Lost something? Got a riddle? Leave it to Miss Loopel! The detective office is quietly open today, too.

中高生クラス

 今回の中高生クラスには学習者が二人いました。一人は、ペルー出身で今年の5月半ばに来日し、9月より栃木市内の中学校の2年に編入学する予定です。もう一人は、栃木市内にある県立高校1年生で、出身はバングラデシュです。
 中学2年生になる方は、前半はひらがなとカタカナを書く練習をしました。特にカタカナを使って、「バレーボール」などの意味のある語を書いてみました。後半は、あいさつのことばを書く練習をし、そのあと音読しながら意味を確認しました。食べ物も取り上げ、今朝食べたものを絵に書いてもらい、会話もしました。このような学習には、絵や図表が豊富な入門期のテキスト『にほんご これだけ!1』はとても有効です。こうした活動を通して、ひらがな、カタカナともに上手に書けることを確認し、語や簡単な文の意味も理解していることが分かりました。今後の学習に向けてよい手ごたえを感じています。
 高校1年生については、前半に中学校、後半に大学の教員が分担・協力して応援しました。前半は、高校の生物基礎の教科書を使って細胞分裂について学習しました。後半も細胞分裂の学習を続けましたが、この学習者が大学進学を考えているため、大学までの流れについても説明しました。具体的には、入試方法、入試科目、国公立大学と私立大学の違いなどを取り上げました。国公立と私立の違いは、学費、受験科目数、合格点などの観点から比較し、大学名も少し挙げて分かりやすく解説していました。
 なお、この日は、上述した中学生の両親も来ていて別のスタッフが応援しました。二人とも日本滞在は7~8年と長いのですが、ひらがな・カタカナが書けないのが特徴です。母親は、日本語を少し学んだことがあり、あいさつや自己紹介について学習しました。父親は、仕事のみの生活のため、日本語を学ぶ機会がなかったそうです。この日は、ひらがなを少し学習しました。蔵の街校には親子がそれぞれ希望する学びをスタッフがやさしく応援する場と雰囲気があると感じました。今後もこうした場と雰囲気を大切にしたいと思います。
(佐々木一隆)

社会人クラス

 宇大の授業で参加させていただいていますが、今回で6回目となりました。社会人、小学生のクラスを経験させていただき、今日は中高生を見たいと考えていましたが、社会人の学習者が多かったのでそちらのサポートに入りました。
 初めて来たときは、社会人クラスの見学で、学習者とのコミュニケーションがただ楽しかったのですが、学習者と一対一になると、楽しいだけというわけにはいきません。彼らが現在どんな日本語レベルで、何を目的に来ているのかを理解し、到達目標に向かって段階的なサポートをする必要があります。本当に数回のサポートしかしていませんが、それでも学習者の背景や目的は多様です。ただ日本語を話せたり書けたりすることだけを目的に来ているわけではないということがよく分かりました。
 今日担当した学習者は日本語能力試験N4を目指すネパール人の若い男性Rさんでした。来日して1年足らずですが、長く日本に滞在して仕事をするために勉強しているのだそうです。ネパールでも日本語を学んで来ており、ひらがなを読んだり、短文の意味を理解することは問題なく、発音もきれいでした。ただ、N4のテキストを見ると、動詞の活用などが問題として出ており、文章の意味とどの動詞が括弧内に入るかが分かっているのに、解くことができません。テキストに載っている説明では分かりづらく、どのように説明して良いやら、自分自身もどかしく感じてしまいました。意欲的な学習者に対し、しっかり準備をすることが誠実だなと反省しました。
 自宅で調べてみると、日本語能力検定N4をとると、特定技能ビザを取得することができ、就労の幅も広がり、最大5年VISAの更新が可能だそうです。また、そのほかにも制度的なメリットもあるようです。外国人に対する制度もこの先変わっていくかもしれませんが彼らの背景をよく理解し、サポートできたら良いと思います。
 最後にRさんに「日本人の友達はいる?」と聞いたら「いない」と答えました。ここのスタッフのみなさんはとてもフレンドリーで優しい方ばかりです。長く滞在するならなおさら!まずここでお友達を作って、充実した私生活も送ってほしいなと思います。(大﨑香苗)

社会人クラス

 学習者は14人。今まで一番多く参加してくれました。支援スタッフは20人。 ネパール人4人、フィリピン人3人、日本人2人、インド人2人、ペルー人2人、タイ人1人。
 授業の途中でMさんがフィリピン人の三人の女性に書類届けに来てくれる。 社会人の教室はアロマの臭いが残っているので、別な教室をとのことだったが殆ど気にならなかったので、そのまま使うことになった。
 ところでアロマの臭いがよくわからないので気に仕様がなかったのが本音だ。多分、多くの人の熱気でかき消されたのではと察した。
 新しく参加してくれた学習者は6人。特に、目立ったのがフィリピン人の女性達。とにかく、よくしゃべり笑いまくっていた。どうして、あんなに笑うのか何がおかしいのかと深堀してみた。多分、南国育ちというのが影響しているのではと勝手に結論付けた。それ以外に考えられなかったから。
 フィリピン人の二人の女性は日本に住んで21年になるという。 いろんな仕事をしてきたとトーンを急に落としたので、辛い仕事も経験してきたのではと読み取りました。現在は工場で働いていると丸い笑顔を浮かべた。21年間日本で暮らしていても読み書きができないと爆笑した。ここで、爆笑するところではないのだがと思いましたがあまりの激しい爆笑に笑い飛ばすしかないと一緒に笑ってしまった。
 何事も笑いの渦に巻き込んでしまう術を身に着けてる様な気がした。会話はカタコトだが何とか意思疎通はとれるので、カタカナで名前を書いてもらう。爆笑の女性はカタカナも書くことが出来ないので英語で書いてもらう。21年間暮らしてきて読み書きが出来なければ、生活に支障をきたすのではと不思議に思いました。
 例えば、子供がいる場合学校からの連絡はどうしていたのかと謎が深まってきましたが、日本語の分かる友達にサポートしてもらっていたのかもと結論付けることにした。
 そんな時、「私の一番好きなフルーツはマンゴ」とスマホの画面を見せてくれました。マンゴはいろんなスイーツとトッピングすることができるとさらに画面をアップしました。
 アイスクリームの上にマンゴがすき間がないくらいにのっているのと、あんことマンゴが混ざり合っているスイーツには驚きました。あんことマンゴのスイーツは人気があると教えてくれました。
「日本はマンゴは高いね。フィリピンは庭にマンゴの木があるからいつでも食べられるよ」とまた画面をアップして見つめていた。確かにマンゴは高級フルーツだからなかなか口に入らない。多分、1個千円近くするのでは。
 数年前に、友達にフィリピンのお土産として頂いたので、その時、初めて口にした。ただ、クリーミィで円やかな甘さだけが印象として残っている。とても高価なので自分で買う気が起きない。 日本でマンゴの有名なのは宮崎県だ。大きなハウスで栽培しているのを画面で観たことがある。1個、1個袋をかぶせて丁寧に育てているので値段が張るのは当たり前と納得した。 
 彼女はひらがなカタカナはゆっくりながら書くことはできる。教本にのっている単語のひとつひとつをノートに書き写し始めた。
 爆笑の彼女はひらがなを書く気が起きないのか全く書こうとしない。それでいて堂々としているのには驚いた。文字が書けなくても大した問題じゃないと突き付けられたような気がした。
 文字が書けなくても読めなくとも21年間暮らしてきたという実績がすべてを語っていた。トイレ休憩に男の人が入って来て、彼女たちに何か重要な書類を渡し直ぐにでていった。
 彼女たちは教会の先生と呼んでいた。教会なら牧師さんではないのかと尋ねた。牧師さんと言っても分からないのでスマホで検索して
「pastor」の画面を見せたら違うと直ぐに返ってきた。
 するとまた、男の人が入ってきた。女性の横に座った。Mさんは彼女たちと日本語で会話を始めた。タガログ語でもなければ英語でもない。
 21年間も日本に住んでいると日本語も公用語のひとつになったのかと何故か嬉しくなってきた。
 Mさんはいつしかフィリピンについて語り始めた。「彼女たちの祖父は日本人なんですよ。彼女たちは3世なんです。戦争でフィリピンに残り現地の女性と結婚したんです。ミンダナオ島にはまだまだたくさんの日系人がいます。帰りたくても帰れないのでいるのです。なかなか日本政府が認めてくれないんです」
 Mさんの説明で彼女たちは日本人なんだと改めて親しみが湧いてきた。 言葉の壁があるから彼女たちの本当の心の裡を覗くとことができないのが残念なことだ。それでも彼女たちのポジティブな笑い声が何もかも包み込んでくれる気がした。
 Mさんの顔は彼女達とは違って四角に固まっていた。「フィリピンには幾つもの言語があるのが誇りなんです。最初はスペインのマゼランに征服されて 次にアメリカに占領されたのでフィリピン人は2つの言葉が話せるんです。フィリピンの国名はスペインの国王フィリペから取ったのです。だから、フィリピン人はスペインの名前なんです」フィリピンの国名はスペイン国王から取ったとは初めて知った。スペイン、アメリカに占領されてもそれをバネに変えて行く力強さに圧倒された。
「フィリピンの優秀な若者はアメリカやカナダに留学をして戻って来ないんです。向こうの暮らしが良いからでしょうが。スペインはますます貧しくなってしまいます。日本に看護師と介護士が来ています。看護師は国家試験に3回失敗するとフィリピンに帰されてしまいます。国家試験は難しいからなかなか受かりません」と説明してくれた。看護師や介護士が不足しているのでフィリピン人やインドネシア人が来日していると新聞で読んだことがあったので納得した。「私も日本に来てフィリピンには戻らないでいますので」とやっと笑顔を覗かせてくれた。短い時間だったが、フィリピンの歴史を垣間見ることができ有意義だった。彼女たちの笑顔の裏には制服されても生き抜く力強さが潜んでいると読み取ることができた。

 今回もNさんの支援をする。Nさんは来年4月にG高校に入学が決まったと両手を突き上げ喜んだ。「ところで、お店はどうするの」「お店は11時から4時までやります。4時から学校に通います」午後8時半に学校が終わってからから予約のお客さんだけをやると言う。彼女の本気度を窺うことができた。
「日本人から学んだことがあります。温泉に行ったときに日本人は物を大切にします。外国人は物を大切にしないで投げたりします。本当に日本人は素晴らしいです」と思わね言葉を口に出してきたので、窮してしまった。
 日本人にとって当たり前と思っていることでも彼女には新鮮に映ったのかもしれない。日本人のサポータが外国でのサッカーの試合の応援に行って、試合が終わった後、ゴミを拾ってる姿が外国のニュースに映されたことがあった。外国では見られない光景だからニュースに取り上げられたのではないのかと思う。大リーグの大谷選手も打席に立つときにごみを拾う姿が放映されたことがあった。彼にとっては当たり前の行為でも外国人にとっては信じられないことだったのかもしれない。
 お客さんの応対についての質問があった。
「二人で行ってもよいですか」と電話がかかってきたという。一人でやっているので二人で来てもできないのでどう断わればよいのですかという。そういう時にははっきりと一人で来てくださいと言った方が良いとアドバイスをした。
 店の近くのホテルの宿泊客が殆どと、後はコンビにくるお客さんという。
 学習が終わってKさんが近づいて来た。笑顔で「げんきですか」と声を掛けてきた。差し出してきた手を握ると更に力いっぱい握り返してきた。大陸の熱風が手からジンジン伝わってきた。(国母仁)